2012年4月9日月曜日

読書感想文(3)助川幸逸郎 堀啓子『21世紀における語ることの倫理』

ひつじ書房
発売日:2011-10-04
この論文集のコンセプトは、簡単だ。ソーシャルメディア時代に、発信するということは、どういうことか。それは、文章を書くということというだけにとどまらない。一から多の時代から、多から多の時代へ。それはよく言われていることだが、情報技術によって、<語る>コストが小さくなった結果生まれた状況である。

物語るということ。物語は、歴史とも言い換えが可能だ。大きな物語が失調した結果、小さな物語が台頭してきた。そんな議論は、もはや垢が付きすぎている。<歴史>を語ることは、正しい歴史を確定し、規定するということではなく、正しさを反証していく無限の運動である。常に<歴史>は、書き換えられてきたし、これからもそうなるであろう。

だからこそ、歴史家は、歴史に対して真摯な気持ちであらねばならない。そして、ライフログ時代にあっては、わたしたち自身が、ミニマムな歴史家として、存在していることを自覚していくことが重要だと私個人は思う。語ることの倫理はそういうことではないのだろうか。そういったことを考えた。

私たちは、歴史というものに対して、全知全能であることは、出来ない。不能にとどまりつづけること、そこにしか倫理は、ありえない。神に倫理は存在しない。倫理とは、不能である人だけが持つことが出来るものだからだ。

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